なぜデータベース化が必要か

 標本館に所蔵されている標本は、生物学にとって最も重要かつ基本的な情報源であり、今日も世界中の研究者によって利用され続けています。しかし、現状では標本の持つ情報が有効に利用されているとは言えません。これは、植物標本が世界中の標本館に分散していて参照するのが容易でなく、どこにどのような標本があるのかということさえ知るのが難しいなど、標本を利用する上での様々な制約が原因と考えられます。そして、標本数の増加に伴い、より適切な標本整理・管理対策が標本館に求められています。このような事情から、近年、世界各地の標本館において標本情報をデータベース化し、インターネットを介して情報発信する動きが急速に広がっています。

 標本情報のデータベース化とネット公開の意義は、次のようなことが考えられます。

・研究の効率化

 前述のように植物標本は世界中の標本館に分散していて参照するのが容易ではなく、標本の所在に関する情報を入手することさえ困難です。しかも膨大な数の標本を参照して記録するのは、かなりの労力と時間を必要とします。植物標本の持つ情報をデータベース化して公開することで、標本を探し回る時間・労力・旅費などのコストを節約し、研究を効率的に進めることができるようになることが期待されます。

・利用形態の多様化・利用者の増加(教育・普及効果)

 標本館の利用は多くの場合、専門の研究者に制限されていますが、ネット公開することで様々な方面からの利用が可能になります。特に小中高校などの教育現場でコンピュータを使った学習が積極的に導入されている現在、標本画像を含むデータベースは生物に対する人々の興味を引きつける格好の教材となります。普段は一般に公開されていない学術標本も、公的資金(税金)を使って生産された以上、ネットワーク等を介して可能な限り一般公開することは納税者に対する義務であるとも言えます。ただし、悪質な山野草業者やマニアなどによる盗掘の危険がある種については、採集地等の情報を非公開とするなどの対策が必要です。

・標本の維持管理対策

  標本館の業務は、標本の収集・整理・維持管理だけでなく、国内外の標本館との交換・貸出等の対外サービスなど多岐にわたっています。所蔵標本がデータベース化されていれば、図書館における蔵書管理のように、より適切かつ効率的な標本管理が可能になることが期待されます。

 もう一つ問題なのは、ラベルに使われている用紙とインクの耐久性です。ラベル作成には様々なプリンターが用いられていますが、使用されているインクや用紙の耐久性が低い場合、時間が経過するにつれて、ラベルが読みとれなくなる恐れがあります。しかし、ラベル情報をデジタル化し、データのバックアップやソフトのバージョンアップなどに対処することで、これを永久に保存することができるはずです。

 さらに標本の画像情報も併せて公開することにより、標本貸出の回数が減れば、標本輸送時に生じる破損や紛失の危険を減らし、標本の「寿命」を延ばすことにもつながると考えられます。