顕微鏡画像(その3)作業効率の比較


 顕微鏡撮影は、いわば職人芸的要素が強くケース・バイ・ケースで撮影条件の適正化を行わないとなかなかうまくいかない。また、生物試料の場合時間とともに劣化したり、動いている試料も有るので、撮影効率が悪い場合には画像を記録することが出来ない場合も有る。ここでは筆者が実際に使用した経験に基づいて、撮影装置(MC80DX)で撮影した画像をPhotoCDでデジタル化した場合、またデジタルカメラ(HC2500)で直接デジタル画像として取り込んだ場合の作業効率について検討した。

撮影手続の比較

塩銀写真撮影とデジタルカメラ撮影の最大の相違点は、塩銀方式では仕上がりが現像しないと見えないのに対して、デジタル方式ではプレビューで撮影条件の調整をし、更に必要に応じて仕上がりをその場でチェックできる点である。しかし、その間の手続きは当然デジタル方式の方が煩雑に成りがちである。手続きの違いを項目別にまとめた(表3−1)。

表3−1

顕微鏡撮影装置、PhotoCD方式の場合

  • ファインダ(位置・焦点合わせ)
    撮影装置がきちんと取り付けられていれば、通常の接眼レンズで焦点と位置を合わせるだけで設定することができる。従って、撮影のための特別な作業時間は不要である。
  • 感度設定
    感度はフィルムに依存するので、随時変えることは出来ない。フィルムケースを複数用意すれば、感度を柔軟に変更することは可能である。いずれにしても、一般的な作業時間には関係しない。
  • 露光
    基本的に露光は撮影装置に任せる。数回の試し撮りで自分の試料における適性露出を得るための設定が見つかれば、あとは露光を気にする必要は無くなる。従って、一般的な作業時間には関係しない。
  • 自動巻き上げ
    1本のフィルム(36枚)はシャッターを押すたびに自動で巻き上げることが出来る。作業時間[1秒/フレーム]
  • フィルム交換
    連続撮影は36枚までである。その後はフィルム交換しなければ成らない。かなり自動化されているので実質的な交換作業時間は3分程度である。作業時間[5秒/フレーム]
  • フィルム現像
    これは、基本的に写真店に依頼することなので、作業時間には換算しない。
  • 画像確認とPhotoCDの作成
    現像したフィルムの画像を確認し、目的に適した画像を抽出して、PhotoCDの作成を写真展に依頼する。画像チェックにかかる時間は目的に応じて異なるが、複数枚の画像から1枚の画像を抽出すると考えた場合、作業時間[10秒x確認枚数]とした。作業時間[10秒/フレーム]

デジタルカメラ(HC-2500)の場合

  • ファインダ(位置・焦点合わせ)
    カメラがきちんと取り付けられていれば、通常の接眼レンズで焦点と位置を合わせるだけで設定することができる。しかし、デジタルカメラの撮像面の大きさが35ミリフィルムと異なることから、撮影範囲はプレビューモニタで確認する必要が有る。結果として、異端顕微鏡から目を離して試料の移動を行うので、焦点の微調整もプレビューを見ながら再度行うことになる。作業時間[10秒/フレーム]
  • 感度設定
    CCDのゲインをコントロールすることで感度変更が可能である。露光調節で適切な感度が得られない場合には感度を変更する必要が有る。類似の試料を取り続ける場合には感度調節は1回で済むが、光学的条件の異なる試料を撮影する際には「露光」の調節として「感度」の変更が必要になる。作業時間は、露光調節の過程に含めた。
  • 露光調節
    自動露光機能は顕微鏡という特殊な光条件に適していない。従って、プレビュー画面を見ながら様々な露光調整を試みる、顕微鏡照明の電圧調節で露光を補正する場合にはホワイトバランスの調整も行う必要が有る。ほぼ同じ光学条件の試料では約数秒、異なる場合には調整約数分がかかる。同一条件で5枚ずつ撮影し、続いて異なる条件への設定を30秒行った場合には、作業時間[30秒/フレーム]
  • ファイルの保存
    連続的にファイルに書き込む事が可能である。ただし、プレビュー画面の解像度が最終画像の半分しかないため、最終画像を保存前に確認する必要が有る。その場合は、一端メモリに保存した画像を、ファイル名を付けて保存しなければならない。その作業時間は[20 秒/フレーム]で有る。
  • ファイル名の調整
    撮影中に短時間で保存したファイルの名前やフォルダの名前は、長期保存を考えた場合には必ずしもそのまま使えるものではない。筆者は、専用ツールを使って、日付とシリアル番号化したファイル構成を作成している。作業時間[10分/100フレーム]
  • CD−Rへの書き込み
    600 Mb程度(6Mb程度の画像で約100フレーム)を基準にCD-Rへの書き込みを行う。4倍速のCD−Rライタで書き込みの確認作業まで入れると、作業時間[40分/100フレーム]であった。

作業の流れ図

以上の作業を流れ図(図3−1)にまとめた。

これらの2方式の相違点は、「画像確認」の作業が異なる位置に配置されることと、デジタルカメラの場合は自動露出が難しいための「露光確認」と、ファイル名に法則性が無いため「ファイル名、フォルダ名の調整」が別途必要になる点である。

図3−1

上記流れ図で、撮影中に必須の作業(作業1)と、撮影後にまとめて行うことができる作業(作業2)に分類することが出来る。作業1については画像1枚当たりの平均作業時間を算出し、作業2については画像100枚当たりの作業時間を試算して比較した(表2)。

表3−2

方式\作業種

作業1(/画像)

作業2(/画像100枚)

PhotoCD方式

15秒 約20分

デジタルカメラ方式

60秒 約50分

考察

以上見てきたように、デジタルカメラ方式は現時点では、露光補正・画像のファイリング等の点で、PhotoCDに比べて作業効率がやや落ちることが判明した。しかし、撮影時の作業時間が4倍程度で有ることを考えると、フィルムを利用した写真撮影に比べて大幅に遅いというわけで緒無い。生物顕微鏡という特殊な撮影環境を考慮に入れた自動露出や大量に撮影することを前提にしたファイル名の自動添付機能などを付けていくことで、写真撮影方式よりも最終的な効率アップが望めるものと考えられた。


Copyright by Akira Kihara, Last changes: